食のセレクトショップ、姫路「JYUJIRO-重次郎-」次世代に伝えたい農業のあり方とは
「漁師がつくった漁師飯」「精肉店が経営する焼肉屋さん」と聞くと、きっとおいしいんだろうなと想像がふくらみます。
その仕事に携わっている人だからこそ知っている”素材のよさ”を活かす方法があるんだと、どこかで感じるからかもしれません。
今回の取材先「JYUJIRO-重次郎-」に初めておじゃましたとき、「農家のオーナーが自分の畑で栽培した食材を使って、和菓子を作っているんですよ」というお話を聞きました。
食べてみると、想像と実際に食べた感想が一致して「やっぱり…!」とうれしい気持ちに。
「農家さんがおはぎやお餅を作り始めたのは、なぜだろう」と興味がわいて、その答えを知りたくて、店主の三木伸雄(みき・のぶお)さんにお話を伺ってきました。
(取材日:2018年5月18日、撮影:嶋田コータロー)
見た目よりも素材にこだわる、JYUJIROの人気商品「SUI-穂-」
――まず最初に、お店の人気商品を教えてください。
三木さん(以下、三木):一番人気はおはぎの「SUI-穂-」シリーズです。このおはぎは、自分の畑で収穫したはりまもち(もち米)や無農薬のもち大豆、無農薬の大納言小豆を使用しています。
SUIという名前は稲穂の「穂」からとって、自然とのコラボレーションという意味合いを込めてつけました。
味のバリエーションも定番7種類に加えて、季節限定が2種類あるので色々な味を楽しんでいただけます。
たとえばバレンタインはクリームチーズのあんに桜の花びらを飾ったものと、ココアパウダーをまとったもの。
秋はかぼちゃやさつまいも味があったり、そのほかには抹茶とほうじ茶もあります。
――SUIシリーズはお米の粒々とした食感が残っていて、個人的にもすごく好みの味でした。たしか、春には桜餅もありましたよね?
三木:桜餅は国産の素材ににこだわって作りました。桜餅に使用されている葉はほとんど中国産なので、国産を調達するのはなかなか難しかったですね。
あと、本来桜餅というときれいなピンク色じゃないですか。でも、うちの桜餅は少し違ったでしょう?
あれは日本の桜を塩漬けしたものをミンチにして練りこんでいるだけなので、着色も一切していません。
だから本当に鮮やかなピンクではないんですが、自信をもって食べてくださいと言えるように、見た目よりも素材にこだわりました。
――SUIシリーズは、形もころんしていて可愛いですね。
三木:うちのおはぎは比較的小さいサイズなので、一度に2~3個食べられるという方もいらっしゃいます。
――私も全種類いただきましたが、それぞれ味が違うので食べ飽きることなく、ぺろりと食べられました。ほかにお店で人気のお菓子はなんでしょうか?
三木:お店によく来てくださる方の中で人気があるのは「MEGUMI-恵-」シリーズのお餅です。
こちらも自分の畑で作った佐用産のもち大豆や大納言小豆を使用しています。
――MEGUMIシリーズのお餅はなんだか不思議な食感でした。もちもちっとしているのに、ふわっとした食感もあって、食べると癖になる味わいで……リピーターが多いのも納得です。
三木:賞味期限は1日ですが、日持ちするような調味料を加えてしまうのはお店のコンセプトからはずれてしまうので、入れていません。
MEGUMIシリーズは僕も個人的に好きなお菓子。
おはぎのSUIはファーストインプレッションが甘く感じるのに対して、MEGUMIは微妙な塩加減の中から甘さがぐっと感じられる。
僕は食感といい、甘さといい、これが好きなんですよね。
こだわりのつまったお店への思い
――そもそも、三木さんがこのお店を始められたきっかけは?
三木:もともと僕は10年間百貨店に勤めて食品やアパレルなどの事業に携わり、「いいものをセレクトして売る」という仕事をしていたんです。
たまたま妻の実家が農業をしていまして、そこで会社をやろうというときに百貨店の仕事をやめて、農業を始めました。
まずは米づくりから始めたんですが、自分で作ったものを自分で売るなかで、「いいものをお客さんに提供したい」という思いが生まれ、百貨店時代のノウハウを活かして農業が潤うような店づくりができればと思って、このお店をつくりました。
――店名「JYUJIRO-重次郎-」の由来はなんですか?
三木:うちの4代前の祖父が重次郎という名前で、自ら米を作り醸造酢を作るという「6次産業(*)」の仕事をしていたんです。
僕も祖父と同じように、農産物を加工して販売する6次産業の仕事を始めるということで、祖父の名前を店名にしました。
(*6次産業…農業や水産業などの第一次産業が食品加工(第二次産業)、流通販売(第三次産業)にも業務展開している経営形態のこと。1、2、3をかけても足しても6ということでそう呼ばれる。)
――お店の内装もシンプルで、すごくオシャレですね。こちらも何かこだわりがあったんでしょうか?
三木:実はお店の壁は自社の田んぼの土を使っていまして。
――そうなんですか?すごい!
三木:デザイナーさんに「ちょっと三木さん、田んぼの土持ってきてもらえないですか?」と言われて「何に使うんですか?」と聞いたら、「魂入れたくないですか?」って(笑)
わらなどが入った本物の田んぼの土を練りこんで、この土壁を作ってくださったんです。
――「農業が潤うような店づくりをしたい」という三木さんの魂が、まさに込められたお店ですね。
三木:ここからだとデコボコ感が分かりにくいですが、真横から見るとひび割れがあったりするんですよ。
あと、お店のロゴも姫路在住の彫刻家の方に手彫りで作って頂きました。
三木:これは重次郎の「重」という漢字の象形文字をデザイン化したものです。土の上で踏ん張っている人間がたわらをもっている姿。
人を重んじる、尊敬する、大地を大切にするという思いが込められて「重」という漢字ができたという話を聞いて、この字をロゴにすることになりました。
――なるほど!素敵なエピソードですね。お店は姫路城の近くにありますが、観光客の方は来られますか?
三木:観光客の方も看板を見ては入ってこられるんですが、いまは地元の方のほうが多いですね。最近は、フランスなど海外の方も来ていただけるようになってきました。
欧米では豆は甘いという認識はあまりないようですが、徐々にあんこや小豆の魅力を分かってくださるようになり、見れば「おお!」と興味をもってくださいます。
お店ではジェラートやカキ氷なども食べられるので、観光がてらに立ち寄る、そういう方がひとりでも増えてくれたら嬉しいですね。
――ここですぐに食べられますもんね。暑い季節は特によさそうです。
三木:カキ氷は去年『関ヶ原』という映画でキャストの方が亀山本山にロケに来られたとき、ケータリングで食べていただいたという思い出があります。
――それは何かお声がかかったんですか?
三木:「姫路観光コンベンションビューロ」というロケ地の誘致をしているところがあって、そちらからお話をいただきました。
映画『ラスト・サムライ』にも出演された原田監督がカキ氷好きだということで、たまたまうちのカキ氷を好きだという職員の方が紹介してくださったんです。
当日はマシンごと持っていって150人分のカキ氷を作ったんですが、暑い時期だったので一気になくなりました(笑)
――そういう時期だからこそ、一層おいしかったでしょうね。
三木:「余っていたらもう1杯もらえるやろか」と言ってくださるスタッフの方もいて、とてもうれしかったですね。
職人×農人のコラボレーション商品「YUI-結-」シリーズ
――お店の右側の棚に並ぶ「YUI-結-」シリーズはどんなものなんでしょうか?
三木:YUIシリーズは、職人と農人(のらうど)がコラボレーションした商品です。
「農業をする人=農人」と僕が勝手に呼んでいるんですが、イベントなどで知り合った方と色々話してみると、みなさん「おいしいものをつくるために栽培から携わる」という志が同じだったんです。
そこから一緒になにかできないかということでこのYUIシリーズが生まれました。
Barjac Picklesさんが作ったピクルスの野菜も、京都の森崎さんが作ったほうじ茶の茶葉も、無農薬栽培で作られたもの。
このYUIシリーズを徐々に繋げられたら色々なものができるので、いつかこの棚を埋め尽くしたいなと思っています。
――無農薬栽培でつくられているものばかりで、素材にとてもこだわりを感じます。
三木:もちろん素材にこだわることは大事ですが、基本的には「食べておいしい」が一番。ただ、おいしさを追求したら、やはり栽培にもこだわりをもつようになるんですね。
――なるほど。コラボレーションをして商品を作るとなると、色々な人と色々なことができそうですね。
三木:賛同してくださる方は多いので、あとは素材とビジュアルと味をどうマッチングさせるか。
素材だけがおいしくても、組み合わせでまた違ってくるので、その辺りは時間がかかりますし、収穫できる時期も限られてくるので、難しいところです。
今はその情報が徐々に蓄積されている状態。
今後、毎シーズン来ても新しいものがあるという楽しみのある売り場ができればすごくおもしろいなと思います。
農業離れが進むいま、「これも農業」という形を伝えたい
――三木さんのお話を伺っていると、農業や食に対しての思いがひしひしと伝わってきます。
三木:実は僕は、佐用高校の農業科学科というところで、特別臨時講師として6次産業をテーマに授業をさせてもらっています。
いま、農業をする若者って少ないですし、しても続かない。
それをなんとかするために、ラーメン屋も、うどん屋も、洋菓子屋、和菓子屋もすべて農業者がやってもいい、これも農業の一つの形なんだということを彼らに伝えています。
やる気があれば、小麦粉を作ってうどん屋さんを始めてもいい。
おそらく農業はしんどい、くさい、暑い、きついというイメージがあると思いますが……。
――確かに、そのイメージは強いですね。お米や野菜を作ることだけが農業というイメージもあります。
三木:だからこそ「これも農業」と伝えることが必要なんです。その一環として僕はこの仕事をやり遂げて、なんとか次の担い手につないで、一人でも多く農業者が増えればと思っています。
色々な人が農業に飛び込んできたら、そこでたくさんおもしろいことができるし、そうすれば日本の食文化を変えていくこともできるんじゃないかと。
自分の体は自分の食べたものでつくられていく。農業を突き詰めれば、突き詰めるほどその食の大事さがよく分かりますね。
古き良きものから学び、新しく作りあげていく
――最後にJYUJIROの今後の展開や目指しているものを教えてください。
三木:定番は定番で置いておきながら、今後はもっとYUIシリーズを増やしていきたいんです。
ほかにも、ここに無農薬有機野菜をワインラックのようなもの並べてみたり、新鮮な野菜で作ったスムージーや無農薬栽培のお米で作った塩おにぎりを提供したりと、そういうものが許される売り場にしていきたい。
どういう器に入れて、どういう風に提案したら店のコンセプトや雰囲気と合致するのかが問題ですが、昔からあるような体にいいものをお客様に提供できたら。
僕は、本当に昭和の食文化ってめちゃくちゃいいと思うんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんが昔食べていたものを、もう1回リスペクトする。
「復古創新」ですよね。古き良きものから学び、それを新しく作りあげていくこと。
戦後は自給自足で、きっといいものを食べていたんです。それが高度経済成長期に入って、どんどん農家が減ってきて、輸入して大量生産したもの食べ、アレルギーが増えてきた。
時代の流れの中で、色々な食文化が変わったじゃないですか。だからこそいま、復古創新の精神で農業が変わらないといけないと思うんです。
最終的に土づくりが健康づくりとなって、さらに食べておいしいと感じられるものをつくりたい。
この「食べておいしいと感じるものは、体にもいいんですよ」というところを訴えかけられるような、なにか礎になるようなものが出来たらいいなと思います。
――三木さん、ありがとうございました!
インタビューを終えて
「次はこんなものを作ってみたいんです」と様々なアイデアを話してくださる三木さんからは、農業やお店づくりを楽しんでいる様子、日本の農業や食文化の未来を思う気持ちが伝わってきました。
取材後にいただいた苺のジェラートは、上品なあんこと甘酸っぱい苺、塩気があるポン菓子がトッピングされていて、食べるといろんな味が楽しめる一品。
JYUJIRO-重次郎-は姫路城の近くにあるので、観光などで姫路に立ち寄る機会があれば、ぜひ足を運んでみてください。
JYUJIRO-重次郎-の商品一覧
おみやではJYUJIRO-重次郎-の商品を食べてみた感想も記事にしています。
このページをきっかけにそれぞれのお菓子についてもチェックしていただけたらうれしいです。
- JYUJIRO 恵-MEGUMI-(白)
- JYUJIRO 恵-MEGUMI-(よもぎ)
- JYUJIRO 恵-MEGUMI-(玄米)
- JYUJIRO 恵-MEGUMI-(きなこ)
- JYUJIRO 穂-SUI-(ゆず)
- JYUJIRO 穂-SUI-(くり)
- JYUJIRO 穂-SUI-(きなこ)
- JYUJIRO 穂-SUI-(古代米)
- JYUJIRO 穂-SUI-(よもぎ)
- JYUJIRO-重次郎- FUKU(甘納豆)
- JYUJIRO-重次郎- JIN(ナッツ)
- JYUJIRO-重次郎- 野菜煎餅
JYUJIRO-重次郎- 店舗情報
- 住所:兵庫県姫路市本町68番地170-14 大手前第一ビル1F 10
- 最寄駅:JR「姫路駅」
- 電話番号:079-287-6882
- 営業時間:10:00~18:00
- 定休日:火曜日
店長の橋本さんもとても気さくな方です。どれにしようか迷ったときは、ぜひおすすめの商品を聞いてみてくださいね。