神戸市淡河の地で豊助饅頭を作り続けて130年 満月堂の和菓子づくりへの思い
神戸と聞いてどんな街を想像しますか?
異国情緒漂う街、オシャレな街、洋菓子店の多い街、港がある場所・・・そんなところでしょうか。
ハイカラなイメージのある神戸ですが、じつは今でも、のどかな田園風景の残る町があるんですよ。
その町とは、人口約3,200人の「神戸市北区淡河町(おうごちょう)」。
かつては城下町また宿場町として栄えた地域です。
今回おみや編集部が訪ねたのは、そんな淡河町にある創業明治15年の和菓子店「満月堂」。
神戸市街から車で走ること約30分、お店の大きな看板塔が姿を現します。
あまりのインパクトに思わず「デカッ!」と声が出てしまいました。
お店の名前よりも目立っている「豊助饅頭」の文字。この豊助饅頭がお店の代表銘菓なんです。
わたしは2012年に初めて豊助饅頭と劇的な出会いをして以来、あまりの美味しさに何度もお店に足を運んでいます。
いつ行ってもお客さんで賑わっている様子を見て「一体、一日に豊助饅頭を何個つくってるんだろう?」「豊助饅頭以外にどんな和菓子があるんだろう?」と、ずっと気になっていました。
お店やお菓子のことをもっと知りたいと思い、満月堂取締役の吉村元子さんにお話を伺いました。
(取材日:2018年5月11日)
明治時代から淡河で愛されてきた豊助饅頭
創業明治15年以来、長年食べ継がれてきた豊助饅頭は、極薄皮にたっぷりのこしあんが入った田舎まんじゅうです。
創業者・吉村豊助さんの名前がそのまま菓名になっているんですよ。
――てっきりお店の名前かと思ってしまう「豊助饅頭」の大きな看板がインパクトありますね。
吉村さん(以下、吉村):昔は商品がそれしかなくて、豊助饅頭から始まったからでしょうね。
もしかしたら最初は豊助饅頭という店名で、そのうちにちゃんと店の名前を付けよう、となったのかもしれません。
昔はこういうお菓子、おまんじゅうって貴重だったじゃないですか。
聞いた話ですけど、近所の方が教えてくださったのは、戦争へ行く前に甘いものが食べられなくなるから、年の数だけ食べて行った人がいること。
「何個食べて行ったの?」って聞いたら、21個食べて行ったって言われてました。
――21個ですか、それはすごい!昔から淡河で愛されていた饅頭だったんですね。
つくりたてのとろけるような餡を食べてもらいたい
――あんがすごくやわらかいのが印象的です。
吉村:小豆は北海道産で、あんはうちで炊いてます。
甘さ控えめで、口に入れたらとろけるような餡をつくるようにしています。添加物はいっさい使っていないんですよ。
――お店のホームページに、豊助饅頭を2,3時間おきに作っているとありました。一日何百個という数をつくるんですか?
吉村:はい、つくります。2,3時間おきにつくるのは、お彼岸など一番忙しいときですね。何千というレベルでつくります。
なるべく作りたてを持って帰ってほしいということで、その日によってつくる数は変わりますね。
これだけ作っておいたからといって、すぐなくなるとは限りません。
そうかといえば、お昼まであるなと思っていたものが急に出たりとか。
朝作ったものを昼までに売る、昼までにつくったものを15時、16時までに売る。
なるべく閉店までに売り切る数を、その日の様子を見ながらつくります。
――調整が大変ですね。
吉村:なるべく次の日に残らないような数を作っているので、その日によっては閉店間際になるとないこともあるんです。
最後16時に饅頭をつくって片付けたら、17時に団体のお客様さんが来られて売れてしまったとか。
そうなるとその後のお客様には「すみません」なんですけどね。
でもそれはしかたないと思ってます。まあこれがお菓子のあり方なので。
――豊助饅頭の包装も特徴的ですよね。これを何というんですっけ?
吉村:経木(きょうぎ)といいます。経木は昔からおにぎりとか食べ物をいれていたものです。
木を削ったものなので、適度に水分を出します。
風通しもよくて殺菌作用もあるから、すごく優れたいいものだなと思うんです。
一番人気があるのも経木で包装されたもので、これを5つ6つとかで買っていかれますね。
――木のにおいも含めて豊助饅頭ですね!
和菓子にも季節があるから
――豊助饅頭のイメージがすごく強いですが、季節のお菓子もたくさんあるんですね。
吉村:わたしが結婚したときは本当にまだ商品が少なくて、豊助饅頭・羊羹・最中。あとは田舎ならではの、お供え用の上用饅頭だったんです。
そのうち、季節のいろんなお菓子をしたいねということで、ちょっとずつ増えていきました。
昔はまんじゅうを手で作ってましたから、それをつくるのに精一杯でした。
いまはあんを炊くのは職人さんがしますけど、ある程度は機械の導入で大量につくれるようになったんです。
そのぶんいろいろ季節のお菓子をやりたいということで、少しずつ増えています。
いまからだと冷たいものになっていきますね。
夏の商品、水大福や黒糖の包みわらび、そしてみかん大福です。
秋はいい食材がでてくるので、黒豆とかえだ豆を使ったもの。
季節の楽しみをつくりたいので、ちょっとずつ入れ替えています。
――季節のお菓子のアイデアはどういうふうに生まれるんですか?
吉村:やっぱり外へ行って美味しいものを食べたとき。
いろんなお店へ行って食べてくるので、それがきっかけで思いつきますね。これいいなぁとか、うちもしたいなぁとか。
季節の果物を食べて「これをお菓子にしたらどうかな?」とかも考えますね。
だんごは季節にあわせて変えてるんですけど、もうちょっとしたら山椒みたらしを作りはじめます。
昨日から山椒の実が出始めてきました。
こどもにはちょっと食べられないピリ辛なんですが、それが好きやって言わはる人がいて、去年から作ってるんです。
――和菓子で季節を感じられるよう考えてあるんですね。
日本の食材って理にかなってるなと思います。
夏場はそれ(山椒)を食べ発汗して熱をさますような作用があるので、旬のものを和菓子にも入れたいんです。
季節のものってすごいなあと。そのときに合わせた作用がちゃんとあるのでね。
6月になったら青梅が出てきます。
梅干には滋養強壮があって、梅雨時期の体が弱ってるときに梅干はすごくいいんですね。
だから6月やったら梅のゼリーを出すんです。
――体が季節のお菓子を欲しますよね。
秋には栗が食べたくなる。なんとなくそんなことありませんか?
3月になったら草餅を食べたくなるし、桜が始まるまえには桜餅が食べたくなる。
和菓子にも季節があるから。なんとなく桜の時期になったら桜餅食べたいと思いますよね。
小さいころから親が季節を大切にしてはったら、この時期は○○やなとか。
▼吉村さんオススメの柏餅(6月初旬 旧節句までの販売)
淡河の食材を使っておいしいものを
――淡河の特産を活かしたお菓子づくりに力を入れてらっしゃるんですね。
吉村:淡河産の栗を使ったおはぎや大福があります。あとは淡河のイチゴを使った大福。
ふだんはあまおうを使ってるんですけど、土日だけ、淡河のイチゴ農家さんに頼んで、けっこう大きいイチゴ大福をつくってます。
それから、淡河のお米を使うときもありますね。最近はなるべく地元の何かを使おうということで。
全部はまかないきれませんが、みたらし団子やよもぎの団子は淡河のお米です。
――淡河へ行ってお菓子だけじゃなく特産も味わいたくなってきます!
昔、淡河は美嚢(みのう)郡淡河村でした。神戸市に編入されて今年でちょうど60年です。一応、神戸(笑)
神戸の北の果てなんですけど、車があれば市街から30分で来られます。
農業も盛んだし、ゆりの花もたくさんあるし、神戸市とは思えない田園風景が残る町です。
淡河に来て、淡河のいいところを知ってもらいたい、見てもらいたいなぁと。
6月10日を過ぎたら川沿いに蛍がでます。
神戸市でもそういう蛍が見れて星がキレイなところがあるということを知ってほしいですね。淡河へ来ていただきたいなぁと思います。
――そしてお店へ行って饅頭を食べて帰ると(笑)
吉村:そうですね、うちに来ていただいて、道の駅もありますので淡河の美味しいものを楽しんでいってもらいたいです。
▼趣のあるお店のイートインスペース。購入してすぐに食べられるのが嬉しいですね。
▼満月堂から徒歩3分の場所にある淡河宿本陣跡。こちらのカフェでは、満月堂で購入したお菓子を持ち込んで食べることができますよ。
取材後記
吉村さんのお話の中で度々「淡河」という言葉が出てきたのが印象的でした。
淡河の町とともに歩んできて、これからも和菓子づくりを通して淡河を盛り上げていきたい、そんな思いが伝わってきます。
ただ淡々とまんじゅうを作り続けてきたのではなく、地元を深く思い菓子づくりに励んでこられたんだなと感じました。
インタビュー後もお話が心に残り、次の日にまたお菓子を求めお店へ。
できたての豊助饅頭と季節の和菓子、やっぱり最高でした!
満月堂のお菓子
販売される季節の和菓子は時期によって異なります。通年販売の商品は以下のものです。
- 豊助饅頭
- 最中
- 手づくり最中
- かりんとうまんじゅう
- 羊羹
満月堂 店舗情報
- 住所:兵庫県神戸市北区淡河町淡河754-1
- 電話番号:078-959-0310
- 営業時間:8:00~18:30
- 定休日:水曜日
- 公式ホームページ:http://www.mangetsudou.jp/top.html